恋愛には興味津々! だけどいーーーっつも空回り。仕事はボチボチ。体重はいつもオーバー気味。生活はだらしなく、なにより服がダサい。でも人のダサさには超敏感!劣等感に苛まれながら、欲と見栄だけは人並み以上。ブリジット・ジョーンズは、まるで私。圧倒的に冴えない女。
いや、正直に言えばブリジットは私よりひどい。極度の不器用だし、ドジに限度が無さすぎる。映画『ブリジット・ジョーンズの日記』を初めて観た時、そう思った。次に私は「なーんだ、ダメな女は海の外にもいるじゃない。よかった」とホッと胸をなでおろす。そして、なぜか憎めない彼女のキャラクターに心を奪われた。ブリジットは私の “心の女友達” になった。
あれから15年(そう、恐ろしいことにあれから15年も経ってしまった!)、2作目の『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』で無事に恋愛難民を卒業したはずのブリジットは、43回目の誕生日をひとりぼっちで迎えている。奇遇なことに、私も今年で43歳。つまり、ロウソクを刺したケーキを見ながら、ひとり「All By Myself」に浸る年ではないのだよ。人生はあの頃よりもっともっと現実的で、自分の卵の使い道を含めいろんな決断が目の前にどんどん迫ってくるもんだから、自己憐憫にズブズブと身を沈めているヒマなどないのだ。

果たして15年目のブリジットは? 見てのお楽しみだが「そうこなくっちゃ!」と、思わずスクリーンの中のブリジットと何度もハイタッチを交わした気分になったことだけはお伝えしておこう。何年経っても、彼女は相変わらず気の合う女友達。ブリジットはブリジットらしさを微塵も失わずに、ちゃんと大人になっていた。

そう、ブリジットは遂に少しだけ大人になった。「成長」という言葉からほど遠い存在だったブリジットが、今作では彼女なりの成長を見せている。スッキリ痩せた体型をキープし、仕事ではキャリアアップ(まぁ、相変わらずドジが過ぎるんだけど)。恋愛からは少しだけ距離を置き、ようやく年相応の穏やかな日々を送るのか……と思いきや、運命がブリジットを放っておかなかったのだから、それをハタで見物する女友達(つまり私)は最高の気分。43歳にもなって人生最大のサプライズが彼女を待っているとはね。ねぇブリジット、またしても妊娠検査薬にオシッコをひっかけるハメになるとは、あなたも思っていなかったでしょう?

さて、ブリジットの恋愛はいつだって散々だけど(というか、いつも彼女が自分でひっかきまわすのだけど)、なぜ彼女は素敵な出会いに事欠かないのだろう。今回もまるでシンデレラを思わせるような新しい出会いが彼女を待っていたし、完全に終わったはずの焼けぼっくいにまで火が付いた。ずば抜けて美人でもなく、飛び切り性格が良いわけでもない、そこらへんにうじゃうじゃいるような、まるで私たちのようなブリジット。では、なぜ?
私は思う。ブリジットは誰より素直だから、男が放っておかないのだ。本人は隠しているつもりでも、いつだって魂胆はバレバレ。「馬鹿だなぁ」とは思うけど、やることなすこと、まるで嫌味がない。なによりブリジットは「普通は〇〇でしょう?」と、自分の望みを後ろに隠した物言いで人を責めない。常に彼女がどう思うか、どうしたいかを口にし、行動にあらわす勇気を持っている。確かに、その姿は彼女を幾分子供っぽく見せることもある。けれど、大人のフリをしない方が難しいのが大人の日常ではないか。私は心底ブリジットがうらやましい。だって彼女はどんな場面でも感情をダダ漏れさせられるんだもの。嬉しいときはちゃんと喜び、困ったときはしっかり困った顔をする。恥を掻いたら、きまりの悪い表情を隠さない。あれだけ素直でいられるのは、天賦の才能かもしれない。

大人にとって、ちゃんと尻もちをつくことは恐怖以外のなにものでもない。痛い思いをしても、なかったことにしたい。私は平気、大人だからと嘯きたい。でもそれをやると、積み重なったダメージが後からレバーに効いてくる。顔に余計なシワを刻む。「なかったこと」になんて、ぜんぜんならないことを取り返しがつかなくなってから気付くのだ。
ブリジットはと言えば、毎度毎度きちんと尻もちをつき、それを相変わらずのユーモアで乗り切って、また性懲りもなく立ち上がる。もうちょっと落ち込んで反省してもいいとは思うけれど、人間って年をとったぐらいじゃ根本からは変わらないし変われない。そこに少しの諦観とケ・セラ・セラ精神を兼ね備えたんだから、今回のブリジットは最強と言えるかも。年を取るのも悪くないと、久しぶりのブリジットを見て改めて思った。
「学び」とか「気付き」という言葉は胡散臭くて好きではない。けれど、今回ばかりはブリジットに学ぶことが多かった。痩せたら自動的に幸せになるわけではないこと。恋愛マッチングサービスでどんなにいい結果がでても、「相性」と「愛すること」は別だということ。彼女の物語を「ただのファンタジー」と斜に構えて捉えるのは簡単だけれど、もしかしたら私たちだって、冴えないまま幸せを手にできるかもしれない。素直なブリジットなら、この映画を観てそう思うだろうな。

ジェーン・スー
1973年、東京都出身。作詞家、ラジオパーソナリティ(TBSラジオ「生活は踊る」に出演中)、コラムニスト。自称「未婚のプロ」。著作に「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」